嘉藤 和治さん

 私にとって、阿蘇の第一印象は必ずしも良いものではありませんでした。昭和61年の冬、会社から派遣されて初めて熊本空港に降り立った時、山の方を見て「あれ、茶色っぽいな。はげ山かい?」と不審に思ったものです。誤解はすぐに解けましたが。

 それから、2年近く熊本で独身生活を過ごしました。当時趣味でハンググライダーをやっていたので、大観峰に毎週のように訪れ、春夏秋冬の阿蘇の景色を思う存分満喫できました。

 名残惜しいながらも東京の職場に帰る日が近いてきたある日、阿蘇の風景をしっかり記憶に留めるため、外輪山の誰もいない草原の中に入り込んでいました。2、3時間ほど草の中で寝転んでいると「また戻って来るぞ」との思いが強く浮かんできました。

 そして1年後、私は熊本で家庭を築いておりました。その後は長らく単身赴任を続けていたのですが、この10月に熊本に転勤となり、ようやく落ち着いた暮らしができそうです。

 阿蘇の風景は今までも、そしてこれからも多くの人々の人生にさまざまな影響を与えることでしょう。その風景の要と言える草原の維持に貢献させて貰えることに、とても感謝しています。

(草原だより 62号より)