【茅葺職人インタビュー】 塚本留加さん(株式会社Earth Building)

塚本留加(つかもとるか)
【profile】
日本大学理工学部建築学科在籍中に茅葺きに出会う。大学院時代は「日本茅葺き文化協会」でアルバイトを通じて知見を広め、現在は「株式会社earth building 」に所属。夢は茅葺きスナックのママ。

「未来の自分に捧げる、挫けそうになった時の読み薬」

茅葺き職人4年目です。元々、大学では建築学科に在籍していましたが、設計にはまったく興味が持てず‥。卒業論文を書くにあたって、研究室の先生に神社仏閣の研究にしたいと相談したところ「試しに茨城にある重要文化財を見てレポートを書いてみたら?」とアドバイスを受け、見学に行った先で茅葺きに出会いました。そこで修理に来ていた茅葺き職人さんの空気感に魅せられたわたしは、そのまま大学院に進学。「日本茅葺き文化協会」でアルバイトをしながら、全国各地の茅葺き職人と出会いました。茅葺きに関わる仕事をしたいと思う中で、女性の茅葺き職人さんに出会い「だったら職人になってみたら?」と言われたことをきっかけに「そうか、その道があった!」と目から鱗が落ち、今に至ります。

が、正直にいうと毎日のように壁にぶつかってます。体力は並、運動神経も並、唯一高校時代に所属していた応援団(チアではなく学ラン✖️ハチマキの方)で声だけはでかいけど、暑さ寒さにはもちろん弱い。明るい性格ですが、考え込むタイプでもあるので挫折感もハンパないです。そんなわたしを日々助けてくれるのは、昔ながらの知恵と、身近な人たちとの連携です。

それでも最近、ようやく“わたしの根っこにあるものと茅葺きはちゃんとつながっているから大丈夫”と思えるようになりました。やさしくも厳しい職人の世界。挫けそうになった時、再び立ち上がる秘訣を未来の自分のためにここに記しておきたいと思います(笑)。

その1|己の体の使い方を学ぶ

たとえば、茅葺きの材料となる茅を束ねた茅束を屋根の上に上げる時。地域によって重さに差はありますが、5kg〜6kgほどの(ものによってそれ以上のものも‥)茅束を屋根の上に人の手で放りあげます。腕の力だけでは瞬く間に限界がくるので、膝のクッションを生かして全身を使うことが肝。それでもダメならそばにいる職人仲間に声を掛ければいい。筋力はなくても、自ずと肩周りは強くなるし、体幹もつきます。持ち方や全身の使い方、昔の知恵に学べば、誰でも現場で働くことができます。

2|職人の作業は“目で見て、耳で聴く”

茅葺きの仕事は、周りがどんな動きをしているかを常に把握しておくことが重要だと感じています。最初から大きな屋根の隅々まで目は届かないので、見えないところは耳も使う。作業は耳で聴くのが茅葺き職人の鉄則ということをとある職人さんから教えてもらいました。叩く音、刈り込む音、さばく音。音で察することで、たとえ自分の手が空いてなくても次の段取りを頼むことができます。また、どれもいい音なのでうっかり聴き入って「自分の音が入ってないじゃん」と注意されないように気を引き締めることも忘れずに。

3|現場にいる人の動きを知る

茅葺き職人だけではなく、施主さんや他の業者の人が何をしているかにも気を配ります。「見えないところは、休憩時間を使ってでも聞いておいた方がいいよ。自分の仕事ではなくても現場全体を把握するいい訓練になるから」と、とある職人さんに言われて以来、できる限りそうしようと心がけています。現場は段取りが命。それらが自動的には言葉にならない世界なので、わからなければすぐに聞く。そのことを常に怠らないように心がけています。

4|茅葺きは地域や自分の鏡

茅葺きは地域の特性が如実に出る素材です。そこを読み解きながら、パズルのピースを当てはめるように知識と知識がつながっていく感覚が何より面白いですね。また、茅は「鏡やないかい!」と大きめの独り言を言ってしまうくらい、その時の自分の気分や体調も表れます。そんな時は茅も生き物という特性を生かして、茅の気持ちに寄り添うようにしています。いつも現場では「いいじゃん!かわいいよ!」と茅と会話しながらやってます(笑)。

5|挑戦することで茅葺きの技術継承に努める

わたしの親方である沖元太一さんは、持てる技術を最大限に生かし、茅葺きの概念を覆す新たな茅の可能性に挑み続けています。熊本駅に連結する『AMU PLAZA』の中にあるパン屋『パン・オ・ルヴァン』の装飾、福岡の『鳥飼八幡宮』など、いずれも親方の言葉を借りれば「血と汗と涙の結晶」です。建築の世界で新たな茅の可能性を広げることは、全国の茅葺き職人との技術交流の場となり、茅場となる草原を守る。茅葺きを継承していくために担う役割は、結構でかいぞと改めてその存在の大きさを感じています。

6|自分の現在地を確認する

料理が好きなので、休日はちょっとオシャレな朝ごはんを作ったり、たくさん作って誰かを呼んで振る舞ったり、非日常を現場の合間に入れることで、自分の現在地を確認しています。また、共働きの両親に代わって、祖父母とたくさんの時間を過ごしたことが今につながっているな、と思うことは多々あります。祖父は大工で、祖母はスナックで働いていました。そんなわたしの夢は、“茅葺きスナック”を開くことです(笑)。

わたしは茅葺き職人の仕事ももちろん好きですが、結局のところ茅葺きに関わっている人たちが好きなのです。親方とのぶつかり稽古は日常茶飯事ですが、今の自分を作ってくれているのは、これまで家族のような距離感で関わってきてくれた親方や周りの人たちの存在あってこそ。屋根を通じて生まれる人との関わりがわたしにとって何よりのご褒美です。だからこそ感謝の気持ちを携え、不器用でも一歩一歩、日々に向き合うことで自分を高めている。そんな道の途中です。

株式会社 Earth Building
https://earth-building.co.jp/

【関連記事】
塚本さんの親方でもある、株式会社Earth Building 沖本太一さんのインタビュー記事はこちら

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