伝統の技と知恵で現代建築と並走する、茅葺き職人さんは現代版忍者?!私が茅葺き職人さんを推す理由。

茅葺き職人さんと話していて「好きだな」と思うのは、日本をとても狭く感じられるところです。「高知に若い茅葺き職人さんがいてね」「今年は野焼きの手伝いに行けるかな」。なんて言葉を耳にすると、人との縁に距離なんて関係ないのだなと心強く感じます。

茅葺き職人の世界は少数精鋭。全国各地に仲間がいて、いろんな現場で協働しています。だから、表面的にはカラッとしているけれど、深いネットワークで繋がっていて、互いを信頼し合ってることが伝わってくるのがいい。

例えば、阿蘇の職人さんたちが野焼きをやるともなれば、全国各地から職人仲間が駆けつけます。(遠くの友だちのところへだって、そんなに身軽には足を運べないのに、仕事仲間の元へ走行距離を省みずやってくるなんて素晴らしい…!)。

人とのご縁をつなぎ続けることは、そう簡単なことではない。だからこそ、そのフットワークの軽さはとても新鮮です。そんな茅葺き職人さんのマインドで2月某日。取材班は熊本を飛び出し、広島県広島市にある茅葺き職人の沖元太一さんのアトリエを訪ねました。

大工だったというお父さんの工具や、沖元さんの茅葺きの道具が整理整頓されたアトリエ

現代建築に憧れたエリート、茅葺きにハマる。

「木なんて古いと思ってた」。

茅葺き界を牽引する職人のひとりである沖元さんは、大工だったお父さまの仕事ぶりを間近に見ていながら、大学院時代に茅葺きに出会うまで根っからの現代建築ラバーでした。「GINZA SIX」や「ニューヨーク近代美術館」などの設計で知られる谷口吉生(タニグチヨシオ)さんに憧れ、筑波大学大学院の芸術研究科建築デザインを専攻。在学中に民家調査をする中で、古い茅葺きの民家に出会います。

「建てたのは、トラックで木材を運んだりできない時代の地元の大工さん。曲がりくねった柱や梁など身近にあった材料を考えて、使って、200年も300年も持つ軸部を作ったんだなって感動して。“自分の頭で考える”っていいな、なんて話していたら、隣で聞いていた茅葺き屋根の会社の代表がいて“じゃあ、うち来れば?”って。気づいたら茅葺き屋根の会社に入ってました」。淡々と屋根を葺きながら「茅は、茅でしかないけど、一つの素材にいろんな可能性を見出すのもいいかも」と沖元さんは、茅葺きの世界にのめり込んでいきます。

つくば市古民家調査報告書より

自分が楽しくないと伝わらない。

アトリエを尋ねると沖元さんは「大阪・関西万博2025」で使用予定の茅葺きのソファを製作中でした。両手で抱えるほどの大きさの、まあるい楕円形の茅葺きのソファのイメージは、沖元さんいわく“あんドーナツ”(イメージが想像以上にかわいい!)。

「デザイナーの後輩が茅葺き屋根を見ながら“軒に座ってみたいな〜”っていう言葉にヒントをもらいました」。

脚元の車輪を動かしながら、差し茅で調整をしたり、屋根バサミでカットしたり。そのソファに真っ直ぐに向き合い、カットする沖元さんの姿もまた、愛らしいのです。

まるで寝癖のように茅が飛び出したソファ。寝ぼけた生き物みたいでかわいい

茅が放射状に広がる座面に座ってみると、その感触はまさに“馬の背中”。生命力を感じる適度な弾力と、ほのかな温かみを感じます。より自然に近い茅ならではのテクスチャーは、想像以上に癒やされます。

モダン建築から本命の茅葺き、神社仏閣、竪穴式住居まで幅広く手がける沖元さんですが、実はこの茅葺きのソファのように、“かわいい”ものも多い。茅の帽子や茅のモニュメントなど、沖元さんの中にある“かわいい”はどこからくるのでしょうか。

花柄の茅葺き:品種の異なる茅のグラデーションをいかし、壁面に花柄を描いた「土建屋さん」の社屋
茅の帽子:茅で帽子を作ったのは、茅葺き職人のなかでも沖元さんが初めてでは?

「僕が子どもだからじゃないですか(笑)」と沖元さん。「子どもが喜ぶようにとか、かわいいものを作ろうとかって、これまで意識したことはなくて。ただ、自分が楽しくないと伝わらないとは思ってる。作るのは大変だけど、できてくると“おお〜!なんかできてきた!”ってうれしくなるんです」。

鳥飼八幡宮:沖元さんの代表的な作品の一つ「鳥飼八幡宮」。設計は沖元さんの大学院時代の同級生の同級生でもある「二宮設計」の二宮隆史さん・二宮清佳さん夫妻

茅葺きを知らない人の方が多数だから「これ何?」と思ってもらえるような、実験的な試みもあえて行っているという沖元さん。

「茅を使ったおもしろいものの制作を頼んでくれる人、作りたい人が現れてきた時に、どうやったら実現できるのかな?と考える。その過程も面白いし、同じように茅葺き職人としてチャレンジしてる仲間に刺激を受けながら、世間の空気をちょっとずつでも変えていけたらなって」。

茅葺き職人は、現代建築に並走する忍者かも!

「どんな現場も大体、血と汗と涙の結晶」とは、沖元さんの言葉。確かに建築における技術や建材はどんどん進化するけれど、茅葺きの技術はベーシックかつ普遍的。伝統的な茅葺きの技術と、自分の頭で考えて知恵を絞ることで、現代建築と並走しているなんて、およそ信じがたい所業です。

わずかな道具と自分の身体感覚を使って、伝統の技術と知恵だけを頼りに難解な現場を乗り越えていく職人さんたち

茅葺き職人が使う道具に飛び道具なんてありません。屋根ハサミ、ハサミ、竹、紐、時々ハシゴと自らの身体感覚のみ。ミリ単位の図面も新建材もなし。ほぼ素手で現代建築に真っ向から挑んでいくさまは、痛快ですらあります。

現代建築はつくづく未来志向だなと感じますが、そうした現場においてもグイッと手綱を引っ張って、自分たちのフィールドに落とし込み、読み解き、葺いていく。そんなところが現代版忍者のようで本当にかっこいいのです…。

そもそも“知恵を絞る”って、自分自身に問うことであり、自分の内側に答えを求めることは、自分への信頼の証です。(人として生きる上で、それが1番むつかしいんだからそんな方がいい仕事ができないわけがないじゃん!)と、もはや沖元さんの1ファンである私は思えてならないのです。

[茅葺き職人] 
沖元 太一(おきもとたいち)
【PROFILE】
  広島市出身。筑波大学大学院修士課程修了。宮城県にある茅葺屋根専門会社に10年勤め退社。その後、Earth Buildingを立ち上げ2013年より、生まれ故郷である広島と、宮城県石巻市を拠点として活動している。

株式会社 Earth Building
https://earth-building.co.jp/

[Interview]
草原ライター
中城 明日香 (なかじょうあすか)

編集者・ライター。草原と島の奥深さに魅せられた編集者・ライター。タウン情報誌や編集プロダクションを経て独立。“毎瞬”を楽しむ姿勢でライフスタイルから観光、自然やアート、農業、教育の分野まで幅広く執筆。「死んだら草原に散骨してほしい」と本気で思っている2児の母。

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